物件をいろいろと見て回って、ついに「これだ!」という家が見つかったとします。リスティング価格は$580,000。さて、いくらでオファーを出したらいいのでしょうか?

 「$580,000で出てるんだから、オファー価格は当然$580,000でしょう」と思いますか? それとも「言い値で買うなんてバカらしい。$500,000から交渉を始めて$550,000で折り合わせよう。向こうもその気で高めに出してるに決まってるんだから」と思いますか?

 答えはどっちも×。正解は「リスティング価格はセラーが望む価格だけれど、オファーすべきなのは市場価格。まずは市場価格を調べよう」なのです。

 ★市場価格とオファー

 なぜ、オファー価格は市場価格がいいのでしょうか。その理由は、市場価格はたぶん他の人がオファーする価格でもあるからです。たとえば今、買いたい思った家が市場価格よりも多少高かったとします。そのような家には他からのオファーが集まりません。そうするとオファー価格よりも低い市場価格でオファーをだしても、他には競争相手がたぶんいないので、セラーは市場価格まで妥協してくる可能性が大きくなります。反対に買いたいと思った家が市場価格よりも安く出ているとします。格安物件にはバイヤーが集まりますので、バイヤー同士の競争になり、結局家は市場価格近くで売れる可能性が高いでしょう。どのような価格でリスティングされていても、結局は市場価格付近で売れる可能性が最大なのです。

であれば、こちらが出すオファーも市場価格で出しておけば、希望の家を逃すリスクは低く、支払い過ぎになるリスクも少ないのです。

 では、家の市場価格はどうやって調べたらいいでしょうか。これはバイヤーのエージェントの仕事になります。通常は希望の家から1/4マイル程度の過去1年間などの販売記録を引き出し、その中で最も似た家(俗にコンプと言われます)を探し、それをベースに市場価格を割り出します。ただし機械的にやっただけでは正しい価格は割り出せません。たとえば地形の高低差が激しい地区では、必ずしも近い家がコンプになるとは限りません。崖の上と、崖の下では別世界ということもあります。崖がなくても、大きな通りや、学校区のラインなどで全く価格が違ってしまうこともありいます。また不動産価格が大きく動いているときは半年前の価格では古すぎて参考にならないこともありますが、逆に最近のように価格が比較的フラットな時は2年前に売れたものでも直近の物件があればそれがコンプになることもあります。ですが、このようにして出した市場価格を見てびっくりするバイヤーさんはまずいません。たくさんの物件見てきたバイヤーさんが、「これくらいなら出してもいい」と思う価格は、たいていは正しい市場価格になっていると思います。

 家は全て条件が違うので厳密な数字を出すのは難しく、市場価格は「○~○ドル」というような幅を持った範囲で表現されることが多いと思います。「どうしてもこの家が欲しい!!」と思ったらこの幅の中で上限、「だめだったら他の家を買うからいい」と思えるなら下限でオファーを出すのがいいと思います。

 ★リスティング価格が市場価格よりも低いとき

 リスティング価格が市場価格よりも低い物件にはバイヤーが集まるので(マルティプルオファー)、オファーはリスティング価格を上回ることになるでしょう。「言い値よりも高く出すなんてとんでもない」と思うかもしれませんが、リスティング価格よりも高く売れる物件はたくさんあります。一定エリアでどれくらいの割合の物件がリスティング価格を上回って取引されたか、などの統計もありますので、参考にするのがいいと思います。マルティプルオファーの場合、リスティングエージェントは他のオファーがいくらかは決して口にしませんが、うまく話をすれば大体の感触を得ることが出来る場合もあります。

 「カウンターオファーが来るからはじめは低めに出す方がいい」という人もいますが、特に複数のオファーがある場合、私はこのような考えにはあまり同意できません。世の中にはカウンターオファーを出さないセラーもたくさんいます。低めに出すと、「本当はもっと高くても買う気だったのに、低めに出したために他の人に売れてしまった」ということになりかねません。今現在複数のオファーが無くても、いつ何時他のオファーが舞い込むか分かりません。よほど人気がなかったり、買うのが難しい物件だったり、また「買えなかったらそれでもしかたない」と思う場合は別ですが、それ以外はベストのオファーを出して、あとはカウンターが来ても小額を上げるだけにするのがいいのではないでしょうか。

 ★リスティング価格が市場価格よりも高いとき

 反対に希望の家が市場価格よりもずっと高くリスティングされている場合はどうしたらいいのでしょうか?

 リスティングエージェントは通常、「市場価格よりもちょっと安め」の価格をセラーに推薦します。でも、売る方は「自分の家は世界最高の家だから、普通の家よりも高く売れるはずだ」とどうしても思ってしまうので、必ずしもリスティングエージェントに同意するとは限りません。バイヤーと違って、売り手は他の物件をたくさん見ているわけではないので、市場が全然分かっていない人もたくさんいるのです。

 このような場合、これまでの値引きの記録をまず見ます。特に銀行所有物件の場合顕著なのですが、たとえば月1回$10,000引くというようなパターンがある場合は、それを先取りした価格、つまりリスティング価格よりも$10,000低くてもまずOKだと思います。さらには、セラーが今いくらローンを抱えているかを調べます。厳密な価格はわからないのですが、いついくらのローンを組んだかから大体算定することが出来ます。一般的に言ってセラーは「足が出てしまう状態」、つまりローン残高+クロージングコスト以下では売らないと思います。またセラーがいついくらで購入したのかも調べます。昔に安く買っていて、利益が出るのならリスティング価格よりも引いてくれる可能性が高いと予想されますが、これは人にもよるでしょう。あとはやはりリスティングエージェントに電話して、セラーは値引きする可能性があるのかを聞くことになります。

 以上より値引きに合意してもらえる可能性があるなら、リスティング価格よりもかなり低くてもオファーを出す価値はあると私は思います。「セラーに失礼になる」という人もいますが、市場価格のオファーであればそんなことはないと思います。オファーの書類に、「周囲の物件を調べた結果はこのようになっていて、私はこの家がこのような理由で大好きだから、○ドルという非常にフェアな価格でオファーを出したい」というレターをエージェントに書いてもらって添えれば完璧でしょう。ただしリスティング価格を$20,000以上下回ると、かなりダメもとではありますが。その場合は、セラーが値引きするのをしばらく待つのもいいかもしれません。

 オファー価格を正しく決めるのは物件獲得のためにとても大切です。とくにセラーに利益がないため、激安値段でとりあえず出しているショートセール物件だと威力絶大です。先日も超激安のショートセール物件に、リスティング価格をはるかに上回る&それでも市場価格よりはずっと安いオファーを出した私のクライアントのオファーが、多くのオファーの中からアクセプトされました。リスティング価格よりも$40Kも高いオファーを出すのは抵抗があったと思うのですが、それを乗り越えてクライアントが価格の構造をきちんと理解していただいたのがありがたかったです。