アメリカでの不動産取引で大切な役割を担うのがEscrow(エスクロー)。エスクローとは不動産などの売買取引において、取引の仲介を行う売り手と買い手の双方から信頼される中立的な第三者のこと。「不動産売買の仲介は不動産エージェントの仕事では?」と思われるかもしれませんが、不動産エージェントはバイヤーまたはセラー、どちらか片方の利益を代表しているので、”中立的な第三者”にはなれません。そのため、売り手、買い手両方から雇われる中立的な存在のエスクローを使って取引の安全性を担保するシステムになっているのです。
エスクローの必要性は、映画などで身代金と人質を交換するシーンを思い浮かべていただけると理解していただけるのではないかと思います。お金を荒野の真ん中に置く。そこに人質を連れた悪者が現れる。無事に人質は解放されるのだろうか?もしかすると悪者はお金奪って人質を返さずに逃げるかもしれない。お金を受け取った瞬間に人質が殺されることだったあり得る。反対に、人質を返した後でお金を数えたら額が足りなかったり、偽札だったりする可能性も。いったい何が起こるだろう? 観客は交換シーンを固唾を飲んで見守ります。i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i
もしもここでエスクローが使われたらどうなるでしょうか?悪者と人質の家族の両方から信頼されるエスクローは、まず家族からお金を預かってきちんと数え、本物のお札であることを確認します。悪者からは人質を預かり本人確認します。その後、悪者にはお金を渡し、家族には人質を返します。
実は家族にお金がなく、身代金を村長さんから借りなければならないとしましょう。村長さんは身代金に使うのであれば貸してもいいが、その他のことには貸したお金を使わないで欲しいと思っています。家族に直接お金を渡すと、人質を諦めて持ち逃げしてしまう心配もあります。この場合も、家族ではなくエスクローに村長さんが直接お金を渡せば、お金が他の用途に使われる可能性がなくなります。
映画のシーンとしては成立しなくなってしまいますが、中立的な第三者がいれば、身代金人質交換という取引は格段に安全になり、外部の人を関係させる場合も信用を得やすくなることがわかっていただけたのではないでしょうか。
不動産の購入もお金と不動産の”交換”ですので、身代金人質交換と似ていないとも言えません。当事者だけに任せておくと交換が正しく行われない可能性があり、不動産を担保にローンを借りるなども信頼が得にくいので、中立的なエスクローが使われるのです。
カリフォルニア州の場合はライセンスがある専門のエスクロー会社がエスクローホルダーの役割を果たします。不動産のバイヤーが決まり、契約が締結されると、その取引は”エスクロー期間”に入ったことになり、契約期間が終わって”お金”と”不動産”の交換が終わることを”エスクローがクローズした”と言います。
エスクローは様々な雑務を行いますが、主な業務は以下の通りです。
- バイヤーからのデポジットを預かる
- バイヤーのローン会社に必要な情報や書類を渡し、ローンが予定通り組めるようにアレンジする。ローン書類にバイヤーがサインをする際は、公証人としてアシストする。
- バイヤーから頭金とクロージングコスト、ローン会社から残りの購入資金を預かり、それを用いて既存の住宅ローンを完済。またブローカー、住宅保険会社、管理組合、タイトル保険会社など取引に関してアイヤーあるいはセラーから支払いが必要な個所に送金を行い、利益を売り手に送金する。
- バイヤーとローン会社から購入資金が振り込まれたら、タイトル会社に不動産をバイヤー名義で登記させる。
エスクローは日本ではあまり使われないとききます。やはり、取引に関しては相手を微塵も信用しないのが常識のアメリカならではの仕組みなのかもしれません。